
「売上は伸びているはずなのに、手元に残る利益が増えない」——そんな違和感を覚えたことはないでしょうか。宿泊業界では人件費や清掃費の高騰、OTAへの手数料負担が年々重くなり、売上だけを追いかけていても経営の実態が見えにくくなっています。こうした課題を数字で”見える化”するために欠かせないのが、GOPという指標です。
この記事では、GOPの定義・計算方法から業態別の目安、そして利益を底上げする具体的な改善策までを体系的に解説します。
ホテル経営の健全度を測るうえで、GOPは最も基本的かつ重要な指標です。ここではまず定義を押さえ、一般企業の営業利益との違いやホテル業界でGOPが重視される背景を順を追って見ていきましょう。
GOPとは「Gross Operating Profit」の頭文字を取った略語で、日本語では「営業粗利益」と訳されます。ごく簡単に言えば、ホテルが日常の営業活動で稼いだ売上から、運営に直接かかった費用を差し引いた利益のことです。
計算式はシンプルで、次のとおりです。
GOPの基本計算式
ここでいう「総売上高」には、客室売上だけでなく飲食(レストラン・宴会)やスパ、駐車場など施設が得るすべての営業収入が含まれます。一方、差し引く「運営費用」には、ホテルを日々回すために不可欠な人件費や清掃費、販売手数料、水光熱費などが該当します。ローンの返済や減価償却、固定資産税、地代家賃といった項目は含まれません。つまりGOPは、「ホテルの現場が生み出した純粋な稼ぐ力」を映し出す数字なのです。
GOPの金額だけでは、規模が異なるホテル同士を比較できません。そこで使われるのがGOP率です。計算式は以下のとおりです。
GOP率の計算式
たとえば、年間売上が3億円のホテルでGOPが9,000万円であればGOP率は30%です。同じ売上規模でGOP率が25%のホテルと比べると、前者のほうが5ポイント分だけ運営効率が高い——つまり「1円の売上からより多くの利益を残せている」と判断できます。
日本のホテル業界では、宿泊主体型ホテル(いわゆるビジネスホテル)でGOP率30〜40%程度、フルサービス型ホテル(飲食や宴会部門を持つ大型ホテル)で20〜30%程度が一つの目安とされています。旅館の場合は食事提供に伴う人件費や食材原価が重くなるため、15〜25%程度になるケースも少なくありません。この数値は後ほど「業態別ベンチマーク」のセクションで詳しく取り上げます。
「営業利益なら知っているけれど、GOPとは何が違うの?」という疑問を持つ方は多いでしょう。両者の最大の違いは、差し引く費用の範囲にあります。
| 比較項目 | GOP(営業粗利益) | 営業利益 |
|---|---|---|
| 対象業界 | ホテル・宿泊業界で主に使用 | すべての業界で使用 |
| 差し引く費用 | 運営に直接関わる費用のみ(人件費・清掃費・販売手数料・水光熱費など) | 運営費用に加え、減価償却費・地代家賃・保険料・固定資産税なども含む |
| 含まない費用 | 減価償却費、支払利息、固定資産税、地代家賃(リレント・変動賃料を含む)、保険料など | 支払利息や税金は含まない(これらは経常利益以降) |
| 示す意味 | ホテル運営チームの「現場の稼ぐ力」 | 企業全体の本業による収益力 |
ホテル業界でGOPが重宝されるのは、建物の取得コストや賃借条件といった「経営判断」と、日々のオペレーションという「現場の努力」を切り分けて評価できるからです。とくにマスターリース契約(オーナーから一括で借り上げて運営する形態)やホテル投資の場面では、運営会社の実力を測る物差しとしてGOPが使われます。オーナー側は「このGOPなら変動賃料(リレント)をいくら設定できるか」を判断し、運営会社側は「GOPを最大化するにはどこを改善すべきか」を考える——この共通言語としてGOPが機能しているのです。
ホテル経営では、売上が好調に見えてもGOPが低ければ「忙しいだけで儲からない」状態に陥ります。とくに近年は、人手不足による時給の上昇、清掃外注費の高騰、OTA手数料の負担増といったコスト圧力が強まっています。観光庁の「宿泊旅行統計調査」(2024年)によると、日本の延べ宿泊者数はコロナ前の水準を上回りつつありますが、人件費や資材費の上昇分を吸収しきれず、利益率が思うように改善しない施設が少なくありません。
GOPを定期的にモニタリングすることで、「売上は伸びているのにコストがそれ以上に膨らんでいる」「客室売上は堅調だが飲食部門の赤字がGOPを押し下げている」といった課題がクリアに浮かび上がります。数字で課題が見えれば、打ち手も具体的になります。次のセクションでは、GOPに直結する主要なホテルKPIについて掘り下げていきます。
GOPの意味を理解したら、次に知りたいのは「どの数字を動かせばGOPが上がるのか」でしょう。ホテルの収益構造はいくつかの主要指標によって支えられており、それぞれがGOPと密接に連動しています。
ADR(Average Daily Rate:客室平均単価)は、販売した客室1室あたりの平均売上を示す指標です。計算式は「客室売上 ÷ 販売客室数」で求めます。
ADRが上がれば、稼働率が同じでも売上は増えます。そして客室を1室売るための人件費やアメニティ費は、単価が上がっても大きくは変わりません。つまり、ADRの向上は売上の増加がほぼそのままGOPの増加に直結する、最も効率の良い利益改善策です。
ADRを高めるための具体策としては、需要が高い日(週末・連休・イベント時期)にダイナミックプライシング(需要に応じた変動価格設定)で適正価格を設定する方法があります。また、公式サイトでベストレート(自社最安値)を保証しつつ会員向けの特別割引を提供すれば、OTA経由の手数料を抑えながら単価を維持できます。自社予約エンジンのベストレート(価格比較)機能を活用すれば、手動での価格調整の手間をかけずに公式サイト予約を後押しできます。
OCC(Occupancy Rate:客室稼働率)は、全客室数に対して実際に販売できた客室の割合を示します。そしてRevPAR(Revenue Per Available Room:販売可能客室あたり売上)は、ADRとOCCをかけ合わせた指標で、「RevPAR = ADR × OCC」で算出されます。
RevPARはホテルの客室収益力を総合的に示すKPI(Key Performance Indicator:経営目標の達成度を測る指標)として世界中で使われています。単価を上げても部屋が埋まらなければ意味がなく、逆に安売りで稼働率を上げても利益は残りません。GOPを最大化するには、ADRとOCCのバランスをとってRevPARを最適化する視点が必要です。
たとえば、平日の稼働率が低い施設では、法人契約を増やしてビジネス客を取り込む戦略が有効です。自社予約システム上で法人専用のシークレットプランなどを設定し、駅からのアクセスやWi-Fi環境、ワークスペースの有無といった情報を公式サイトで打ち出すことで、平日の空室を効率よく埋められるでしょう。
F&B(Food & Beverage:飲食部門)や宴会、スパ、駐車場といった付帯収益は、客室売上と合わせてGOPの「分子」を構成します。とくに旅館やフルサービス型ホテルでは、売上全体に占めるF&B比率が30〜50%に達することもあり、この部門の収益性がGOP率を大きく左右します。
F&B部門は食材原価と人件費の比率が高いため、客室部門に比べて利益率が低くなりがちです。だからこそ、食材のロス削減やメニュー構成の見直し、予約客へのアップセル(たとえば夕食付きプランやルームサービスの提案)が重要になります。客室予約の段階でオプションを選べるようにしておくと、追加売上を自然に生み出せます。
予約システム上で宿泊プランにオプションを紐づけて販売できるようにしておくと、予約時点でのアップセルを設計しやすくなります。公式サイト上で「夕食付きプラン」や「記念日ケーキ付きプラン」を見やすく提示することで、F&B部門の売上を客室予約と一緒に押し上げる効果が期待できます。
新規顧客を1人獲得するコストは、既存顧客に再来訪してもらうコストの5倍以上かかるとも言われます。リピート率が高い施設はOTAへの広告費や手数料を抑えられるため、販売コストが下がり、結果としてGOPが改善します。
リピーターを増やすカギは、宿泊体験そのものの質を高めることに加え、宿泊後のコミュニケーションにあります。「お誕生日月に特別プランをご案内する」「前回の宿泊タイプに応じたおすすめプランを送る」といった”自分宛て”と感じるメッセージが、再訪の動機づけになります。
CRM(顧客関係管理)ツールやマーケティングオートメーションを活用し、宿泊履歴や会員ランクに応じたセグメント(顧客グループの分類)を設定し、それぞれに最適化したメールやメッセージを配信するのも効果的です。
ここまで主要KPIとGOPの関係を見てきました。続いては、実際にGOPを算出し、課題を発見し、改善策を打つための具体的な手順と方法に踏み込んでいきます。
GOPの重要性と主要KPIとの関係を理解したところで、いよいよ実務に落とし込んでいきましょう。このセクションでは、GOPの算出手順から、売上・コスト両面での改善策、そして業態別の目標設定やモニタリング体制の構築方法までを解説します。
GOPを正しく算出するには、まず「何を売上に含め、何を費用に含めるか」のルールを明確にする必要があります。以下のステップに沿って進めると、ブレのない数字が得られます。
GOP算出の4ステップ
注意したいのは、OTA手数料の分類です。OTAへ支払う手数料は一般的に売上の15%前後とされていますが、この金額は「販売に直接かかるコスト」としてGOP算出時に差し引くのが通例です。つまり、OTA依存度が高い施設ほどGOPが圧縮される構造になっています。この点を意識するだけでも、自社予約比率を高める意義がはっきりと見えてきます。
GOPを改善するアプローチは、大きく分けて「売上を増やす」と「コストを削る」の2つです。まずは売上側の施策を見ていきます。
最もインパクトが大きいのは、自社予約比率の向上です。OTA経由の予約を公式サイト経由に切り替えるだけで、1件あたりの手数料負担が大幅に軽減されます。同じ売上額でも、手元に残る利益が変わるため、GOP率の改善に直結します。
tripla Bookの導入事例として、京王プレリアホテル札幌では自社予約比率の向上を目的にtripla Bookを導入し、ベストレート機能やメタサーチ連携を活用して公式サイトからの予約を増やしています(参照:tripla導入事例 京王プレリアホテル)。公式サイト上でOTA価格との比較を自動表示することで、「公式が最安」であることを宿泊者に明確に伝え、予約の取りこぼしを防いでいます。
さらに、インバウンド(訪日外国人)需要が高い施設では、海外からの予約を取りこぼさないことが売上増のカギになります。tripla Bookは34通貨でのクレジットカード決済に対応しており、宿泊者のIPアドレスに基づいて自動的に現地通貨で料金を表示します。海外発行のクレジットカードは日本円決済だと承認エラーが起こりやすいのですが、外貨決済によりこの問題を大幅に改善できます。また、8言語(日本語・英語・簡体字中国語・繁体字中国語・韓国語・タイ語・インドネシア語・アラビア語)に標準対応しているため、言語の壁による離脱も防げます。
売上を伸ばす主な施策
売上を伸ばす努力と同時に、コスト構造を見直すことでGOPは大きく改善します。宿泊施設の運営費用の中で最も大きな割合を占めるのが人件費であり、一般的に総売上の30〜40%に達します。ここをいかに適正化するかがGOP改善の要です。
ただし「人件費を削る=人を減らす」と短絡的に考えるのは危険です。サービスの質が下がれば口コミ評価が悪化し、売上そのものが落ちてしまいます。重要なのは、人にしかできない接客に人材を集中させ、機械やシステムで代替できる業務は自動化する「省人化」の発想です。
たとえば、電話やメールでの問い合わせ対応は施設スタッフの大きな負担になっています。tripla Bot(AIチャットボット)を導入した施設では、メール問い合わせが約60%削減、電話問い合わせが約40%削減されたという実績があります。浮いた時間を対面の接客やアップセルの提案に振り向けることで、コスト削減と顧客満足度の向上を両立できます。tripla Botは8言語に対応しているため、インバウンド対応の負荷軽減にも効果を発揮します。
もう一つ見逃せないのが、OTA手数料の適正化です。OTA手数料は一般的に宿泊料金の15%前後とされていますが、これを自社予約に切り替えられれば、その分がそのままGOPの改善に回ります。デジタルマーケティングの専門知識を取り入れ、Google広告やSNS広告、メタサーチなどを通じて公式サイトへ直接集客できれば、OTA手数料以下の集客コストで効果的な広告運用が可能です。
自施設のGOP率が良いのか悪いのかを判断するには、業態別の目安を知っておく必要があります。以下は日本のホテル業界で一般的に参考とされる水準です。
| 業態 | GOP率の目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 宿泊主体型ホテル(ビジネスホテル) | 30〜40% | 飲食部門が小さく、人件費比率が低いため利益が残りやすい |
| フルサービス型ホテル(シティホテル・リゾートホテル) | 20〜30% | 飲食・宴会部門の人件費と食材原価がかさみ、率は下がりやすい |
| 旅館(食事提供あり) | 15〜25% | 食事提供に伴う人件費・食材費が大きく、季節変動も影響する |
これらの数値はあくまで業界平均としての目安であり、立地やターゲット層、施設規模によって大きく異なります。大切なのは、業界平均を参考にしつつ「自施設として何%を目指すか」を明確に設定し、月次で進捗を追うことです。
目標設定のコツは、まず現状のGOP率を正確に把握し、次に「売上を◯%伸ばす」と「運営費用を◯%削減する」の両面からシミュレーションを行うことです。たとえば、現在のGOP率が25%の施設がOTA手数料を年間500万円分削減できれば、それだけでGOP率は数ポイント改善する計算になります。
GOPを一度計算して終わりにしてしまうと、せっかくの指標が「過去の記録」で終わってしまいます。重要なのは、GOPを構成する主要KPIを日次・週次・月次で追いかける仕組みを作ることです。
モニタリングすべき主要KPIの例
これらの数値をダッシュボード上で一覧できるようにしておくと、異変に早く気づけます。業績管理ダッシュボードやBIツールを活用すれば、予約状況や売上、ロイヤルティ会員データ、マーケティング施策の効果などをグラフや図で直感的に把握できます。さらに、OTAに掲載している自社の販売価格を時系列で追跡したり、競合施設の価格を日次で比較・分析したりする自動化ツールを導入すれば、手作業でExcelに数値を転記して集計する負担を減らし、その分の時間を「数字を見て判断する」ことに充てられるようになります。
GOPの改善は一朝一夕では実現しませんが、正しい指標を正しく追い続けることで、確実に成果に近づきます。まずは自施設のGOPを算出するところから始め、どのKPIにテコ入れすべきかの優先順位をつけてみてください。
この記事では、ホテル経営の収益性を示す最も基本的な指標であるGOP(営業粗利益)について、定義・計算方法から業態別の目安、そしてADRや稼働率といった主要KPIとの関係、売上・コスト両面での改善策までを体系的に解説しました。
GOPは、建物の減価償却や賃料といった「動かしにくいコスト」を除外した、ホテル現場の”稼ぐ力”そのものを映す指標です。だからこそ、日々のオペレーション改善——自社予約比率の向上、問い合わせ対応の効率化、インバウンド対応の強化——がダイレクトに数字の改善として表れます。
最初の一歩は、自施設のGOP率を正確に算出することです。数字が見えれば課題が見え、課題が見えれば打ち手が具体的になります。忙しい毎日の中でも、月に一度GOPをチェックする習慣をつけるだけで、経営判断の精度は確実に上がります。ぜひ今日から取り組んでみてください。
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