
「GWや年末年始は満室なのに、なぜか売上が思ったほど伸びない」——そんな経験はありませんか。繁忙期は予約が殺到する一方で、OTA(Online Travel Agency:インターネット上の旅行予約サイト)への手数料負担やスタッフの疲弊が重なり、実は「稼ぎどき」を最大限に活かせていない施設が少なくありません。
この記事では、ホテル・旅館の繁忙期の全体像と、売上を確実に伸ばすための具体的な対策を解説します。
ホテルの繁忙期を正しく把握することは、価格設定・人員配置・仕入れ計画すべての土台になります。しかし「繁忙期=大型連休」という思い込みだけでは、本来取れるはずの売上を逃してしまうことも。まずは全体像を押さえたうえで、自施設ならではのピークを見極めましょう。
宿泊業界の繁忙期は、大きく分けて5つのピークがあります。まず春は3月下旬〜4月上旬の卒業旅行・花見シーズンと、4月末〜5月上旬のゴールデンウィーク。次に夏は7月下旬〜8月末の夏休み予約が集中する時期。秋は9月のシルバーウィーク前後と、10月〜11月の紅葉シーズン。そして冬は12月下旬〜1月上旬の年末年始需要です。
観光庁「宿泊旅行統計調査(2023年)」によると、日本人の延べ宿泊者数が最も多い月は8月で、次いで3月・10月が続きます。一方、インバウンドの宿泊は桜の3〜4月と紅葉の10〜11月にピークが重なり、近年はこの時期に客室単価が大きく上昇する傾向が見られます。
| 1月下旬〜2月中旬 | 春節(旧正月)・中華圏の大型連休 | 都市型ホテル・スキーリゾート(北海道・長野等)・アウトレット周辺施設 |
|---|---|---|
| 3月下旬〜4月上旬 | 卒業旅行・花見・インバウンド(桜) | 都市型ホテル・京都など観光地の旅館 |
| 4月末〜5月上旬(GW) | 大型連休による国内レジャー需要 | リゾート・旅館・テーマパーク周辺 |
| 7月下旬〜8月末 | 夏休み・家族旅行・海水浴 | 海辺のリゾート・高原の旅館 |
| 9月中旬〜下旬(SW) | シルバーウィーク・秋の行楽 | 温泉旅館・ドライブ圏の施設 |
| 10月〜11月 | 紅葉・インバウンド・修学旅行 | 観光地全般・大都市ホテル |
| 12月下旬〜1月上旬 | 年末年始・帰省・カウントダウン | 温泉旅館・都市型ホテル |
こうして一覧にすると、繁忙期は年に7回前後あることが分かります。ただし、これはあくまで全国平均の話。次に見るように、自施設の立地や業態によって「本当の繁忙期」は大きく変わります。
たとえば都市部のビジネスホテルでは、大型連休は逆にオフシーズン(閑散期)になることがあります。平日のビジネス需要がメインの施設にとって、企業の休業期間はむしろ空室が目立つ時期です。代わりに、大規模な展示会やカンファレンスが開催される週が、その施設にとっての真の繁忙期になります。
一方、温泉旅館は冬場が通年のオンシーズン(繁忙期)になる傾向があります。カニや温泉を目当てにした冬の需要が厚く、夏場はむしろ集客施策を強化しなければならないケースも珍しくありません。リゾートホテルであれば、沖縄なら6月〜9月、スキーリゾートなら12月〜3月と、気候に完全に連動します。
つまり「世間の繁忙期」と「自施設の繁忙期」は必ずしも一致しないという点が、売上計画を立てるうえで最も重要な認識です。自施設の過去3年分の予約データを月別・曜日別に集計するだけでも、独自の需要パターンが浮かび上がってきます。
繁忙期は「月単位」だけでなく「日単位」でも激しく動きます。週末や祝前日はレジャー需要が高まり、平日はビジネス需要が中心になるのは周知のとおりですが、近年はここにイベント需要が加わって変動幅がさらに大きくなっています。
たとえば大型アーティストのコンサート、マラソン大会、花火大会、スポーツの国際大会などが開催される日は、周辺エリアのホテルが一斉に満室になります。2025年の大阪・関西万博のように、数か月にわたって地域全体の宿泊需要を底上げするイベントもその例として挙げられます。控えています。
こうした「カレンダーに載らない繁忙期」を早期に察知できるかどうかが、料金戦略の明暗を分けます。地元の観光協会やコンベンションビューローの情報を定期的にチェックし、イベント開催日を自施設の予約カレンダーに紐づけておくことをおすすめします。
繁忙期の全体像が見えたところで、次は「その繁忙期にいかに収益を最大化するか」という実践的な戦略に踏み込みます。
繁忙期にただ満室にするだけでは、収益は最大化できません。同じ「満室」でも、販売チャネルや価格設定によって手元に残る利益は大きく変わります。ここでは、限られた客室という資産から最大のリターンを得るための5つの戦略を順番に見ていきましょう。
価格や在庫の判断は、勘や経験だけに頼ると精度が安定しません。まず押さえたいのは「自施設の過去データ」です。具体的には、過去3年分の日別稼働率・ADR(Average Daily Rate:1室あたりの平均客室単価)・予約のリードタイム(予約日からチェックイン日までの日数)の3つが基本になります。
競合施設の価格動向も重要な判断材料です。競合調査機能を持つデータ分析ツールを導入すれば、OTAに掲載されている自社の販売価格を時系列で確認できるだけでなく、競合施設の価格を日次で比較・分析できます。
「どの時期に予約が加速し始めるか」「競合がいつ値上げするか」を数字で把握できると、次に紹介するダイナミックプライシングの精度が格段に上がります。
ダイナミックプライシングとは、需要の変動に合わせて宿泊料金をリアルタイムに変える価格戦略のことです。航空業界では以前から当たり前でしたが、近年は宿泊業界でも導入が急速に進んでいます。
たとえば、GW繁忙期や年末年始需要が高まる時期に固定料金のまま販売していると、本来もっと高い単価で売れたはずの客室を「お得に」提供してしまうことになります。逆に、ホテルの閑散期(1月中旬〜2月、6月の梅雨時期など)には思い切って料金を下げることで、稼働率を維持できます。
ダイナミックプライシングを実践するうえで欠かせないのが、公式サイトの販売価格を常にベストレートに設定するという基本方針です。たとえば、弊社の自社予約システム『tripla Book』に備わっているベストレート機能を活用すれば、楽天トラベル・Booking.com・Expedia・じゃらんなど主要OTAの販売価格を自動取得し、公式サイトが最安値になるよう表示できます。
繁忙期には「どのチャネルに何室割り当てるか」が利益を左右します。たとえばOTA経由の予約は一般的に10〜15%程度の手数料がかかるとされています。同じ1室を販売するなら、手数料がかからない公式サイト経由で予約してもらうほうが、手元に残る金額は大きくなります。
ただし、在庫の調整を手作業で行うのは現実的ではありません。複数のOTAに掲載している客室の在庫・料金を一元管理するには、サイトコントローラー(各OTAの在庫と料金を一括で管理するシステム)が不可欠です。tripla Linkは楽天トラベル・じゃらん・Booking.comなど28社以上のOTAと連携でき、在庫配分の変更を一画面で完結できます。
繁忙期が近づいたら、まず公式サイト用の在庫を十分に確保し、残りをOTAに配分する——この順番を守るだけでも、手数料の圧縮効果は確実に現れます。
「OTAをやめて全部直販にすればいい」という極端な議論を耳にすることもありますが、現実にはOTAの集客力は無視できません。特に新規顧客の獲得においてOTAが果たす役割は大きく、大切なのはOTAを「どう使うか」です。
理想的なのは、OTAで初めて自施設を知った顧客を、2回目以降は公式サイトからのリピーター獲得につなげる流れを作ることです。そのためには、公式サイトで予約するメリットを明確に打ち出す必要があります。
公式サイト直販を強化するための具体策
そこで有効なのが、自社予約システムへの会員機能・ポイントプログラムの導入です。たとえば、一般向け価格と会員特別価格を並べて表示できるシステムを使えば、「今すぐ会員登録すればこの料金で泊まれる」という訴求が自然に行え、OTAからの乗り換え(初回客のリピーター化)を強力に後押しできます。
ダイナミックプライシングやチャネル配分を実行しても、その成果を数字で振り返らなければ改善は進みません。繁忙期の価格施策を評価する際は、次の3つの指標を押さえましょう。
繁忙期の効果測定に使う主要3指標
マーケティングツールを活用して広告データと宿泊データを紐づけて分析することで、正確な顧客層の特定と費用対効果の高い運用が可能になります。実際に適切なデータ分析と広告運用を行った結果、1件の予約獲得にかかるコスト(CPA)を、宿泊売上に対して8.9%程に抑え、効率的な集客を実現した事例もあります。
収益を守る戦略が固まったら、次に考えるべきは「満室のなかで顧客満足度をどう維持するか」というオペレーション面の課題です。
繁忙期に稼働率100%を達成しても、サービス品質が下がればクチコミ評価は下がり、翌年以降の予約に悪影響を及ぼします。人手不足が深刻化するなか、限られたリソースで最高の体験を提供するにはどうすればよいのか。現場ですぐに実践できるオペレーション術を6つの視点で整理します。
繁忙期のスタッフ増員は多くの施設が検討する課題ですが、昨今の人手不足の状況下では「増やしたくても増やせない」のが現実です。厚生労働省「労働経済動向調査(2024年)」によると、宿泊業・飲食サービス業の欠員率は全産業平均を大きく上回っており、慢性的な人材確保の難しさが浮き彫りになっています。
そこで有効なのが、既存スタッフのシフトを繁忙期の需要曲線に合わせて最適化するアプローチです。具体的には、チェックイン集中時間帯(15時〜18時)にフロントスタッフを厚めに配置し、深夜帯は最低限の人員にするといった時間帯別の傾斜配置を行います。
さらに、事前の問い合わせ対応を効率化することで、フロント業務の負荷は大きく軽減できます。まずは公式サイトの「よくある質問(FAQ)」を充実させ、見やすい位置に配置しましょう。さらにAIチャットボットを導入して多言語対応や一次対応を自動化すれば、電話やメールの件数を半減させることも可能です。浮いた時間を対面でのおもてなしに充てることで、少ない人数でも満足度を維持できます。
繁忙期にフロントが混雑する最大の原因は、チェックイン手続きに時間がかかることです。住所の記入や料金の説明に1組あたり5〜10分かかるとすると、15時台に30組が集中すればフロントがパンクするのは明らかです。
事前のオンラインチェックインや、予約確認メールで館内案内を送付しておく方法が効果的です。また、客室内の紙のインフォメーションブックをデジタル化し、QRコード等でゲストのスマートフォンから確認できる仕組みを作るのもおすすめです。フロントでの説明時間が短縮されるだけでなく、多言語対応の仕組みを取り入れれば、インバウンド対応の負担も大きく軽減されます。
清掃面では、チェックアウトからチェックインまでの限られた時間でいかに効率よく客室を仕上げるかが勝負です。清掃スタッフの動線を見直し、リネン類の補充拠点を各フロアに分散配置するだけでも、1室あたりの清掃時間を数分短縮できます。
繁忙期は客室数という物理的な上限があるため、稼働率だけでは売上の天井がすぐに見えてきます。そこで重要になるのが、1組あたりの単価アップです。
客単価を上げるうえで最も自然なのは、食事グレードアップや貸切風呂の利用促進など、宿泊体験そのものの価値を高める施策です。たとえば旅館であれば、通常プランに地元の特選食材を使った特別コースをオプションで追加できるようにするだけでも、単価は数千円単位で上がります。
また、自社予約システム内で航空券と宿泊プランをセット販売できる「ダイナミックパッケージ機能」を活用するのも有効です。遠方からの集客に効果を発揮するうえ、システム(※弊社提供システムなど)によってはオプション料金や販売手数料なしで利用できるものもあります。インバウンド需要の取り込みにおいても、多通貨でのクレジットカード決済に対応した予約エンジンを導入することで、外国人宿泊者が自国通貨で金額を確認・決済でき、為替換算の不安による離脱を防ぐことができます。
繁忙期の売上を最大化するには、需要が本格化する前からの仕掛けが重要です。夏休み予約であれば6月上旬、年末年始需要であれば10月下旬には、リピーターや会員に向けた先行案内を開始するのが理想です。
ここではCRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)ツールの活用が便利です。宿泊履歴や会員ランクに応じたセグメント(グループ分け)配信が可能になり、たとえば「過去に夏に宿泊した顧客」に絞ってシークレットクーポンを配信すれば、画一的な一斉メールよりも高い反応率が期待できます。
SNS活用の面では、InstagramやFacebookでの季節感あるビジュアル投稿が効果的です。AIチャットボットと連携することで、LINEやFacebookメッセンジャー上でもチャット対応や予約誘導が行えるため、SNSで興味を持ったユーザーをそのまま予約完了まで導く導線を構築できます。
実際の導入事例として、リゾーツ琉球(沖縄のリゾートホテルグループ)では、tripla Bookの導入により公式サイト経由の予約比率向上に成功しています。8言語対応と多通貨決済によって、海外からの直接予約が増加し、OTA手数料の削減にもつながっています(参考:tripla公式サイト 導入事例)。
繁忙期は館内の利用者数が通常の数倍になるため、安全管理の強化が不可欠です。特に夏のプール・海辺施設や、年末年始のイベント時は事故リスクが高まります。
基本的な対策として、避難経路の再確認・消防設備の点検・スタッフへの応急処置研修を繁忙期前に実施しておくことが重要です。また、台風や大雪による交通機関の乱れでキャンセルが発生した場合の対応マニュアルも整備しておきましょう。
キャンセル料の徴収が課題になるケースでは、メール等で決済URLを送信できる「リンク決済システム」などを活用すると、事前決済やキャンセル料の請求をスムーズに行えます。
繁忙期が終わると「やっと落ち着いた」とホッとしがちですが、記憶が鮮明なうちに振り返りを行うことで、次の繁忙期の成果が大きく変わります。
繁忙期後の振り返りチェックリスト
高機能なデータ分析ダッシュボード(BIツール)を活用すれば、予約状況・売上・ロイヤルティ会員データ・マーケティング施策の効果をブランドレベルでも施設レベルでも一覧で把握できます。
そして、振り返りで見えた課題をもとに、次の繁忙期に向けた改善計画を立てるところまでが一連のサイクルです。このPDCA(Plan-Do-Check-Act:計画・実行・評価・改善のサイクル)を回し続けることが、年々売上を伸ばし続ける施設とそうでない施設の違いを生みます。
この記事では、ホテル・旅館の繁忙期がいつ発生するのかという基本知識から、収益を最大化するための価格・販売戦略、そして満室でも顧客満足度を落とさないオペレーション術までを一気通貫でお伝えしました。
繁忙期は宿泊施設にとって最大のチャンスであると同時に、オペレーションの弱点が一気に露呈する「試験期間」でもあります。大切なのは、繁忙期が来る前に準備を整え、ピーク中は価格と品質の両立に集中し、終わった後は数字で振り返ること。この3ステップを着実に繰り返すことで、売上は確実に伸びていきます。
まずは自施設の過去データを見直し、「本当の繁忙期はいつか」を再確認するところから始めてみてください。小さな一歩が、次の繁忙期の大きな成果につながるはずです。
triplaでは、宿泊業務の効率化と顧客体験向上のためのデジタルツールを横断的に提供しています。自社予約比率の向上や各種ツールの統合などのお悩みは専任のスタッフに気軽にご相談(無料)ください。