
「今月もシフト表の修正に丸一日かかった」「深夜勤務の残業計算が合わない」——こうした悩みを抱えるホテル・旅館の管理者は少なくありません。厚生労働省「令和5年雇用動向調査」によれば、宿泊業・飲食サービス業の離職率は26.6%と全産業で最も高く、限られた人材で24時間の運営を回すには、勤怠管理の仕組みそのものを見直す必要があります。
この記事では、ホテル・旅館特有の勤怠課題を整理し、おすすめシステムの比較と選び方を解説します。
オフィスワークの「9時〜18時」を前提に作られた一般的な勤怠管理の仕組みは、宿泊施設の現場にはほとんどフィットしません。ここではまず、ホテル・旅館の勤怠管理がなぜ難しいのか、その根本原因を5つの視点から掘り下げます。
ホテルのフロントや警備は、深夜0時をまたいで勤務するのが当たり前です。たとえば22時に出勤して翌朝7時に退勤する「夜勤」の場合、出勤日と退勤日が異なるため、紙やエクセルでは集計ミスが起きやすいのが実情です。「日またぎシフト」と呼ばれるこの勤務形態は、深夜割増賃金(22時〜翌5時に適用される25%以上の割増)の計算とも密接に関わるため、手作業での管理は二重・三重のチェックが必要になります。
さらに旅館では「中抜け勤務」も一般的です。朝食の配膳で6時〜10時に出勤し、日中は休憩、夕食準備で15時〜21時に再出勤するパターンでは、1日の実働時間を正確に把握するだけでも一苦労です。こうした複雑な勤務形態を正しく記録・集計できるかどうかが、勤怠管理システム選びの最初の分岐点になります。
ひとつの宿泊施設の中に、フロント・客室清掃・調理・レストランサービス・施設管理・経理など、性質のまったく異なる職務が存在します。それぞれの部門で勤務時間帯や休憩ルールが異なり、さらに正社員・契約社員・パートタイム・派遣スタッフが混在しています。
雇用形態が違えば、所定労働時間も有給休暇の付与日数も異なります。パートスタッフには「週の所定労働日数に応じた比例付与」が必要ですし、契約社員には契約更新時の労働条件確認も欠かせません。こうした管理をエクセルの手作業で行っている施設では、担当者が退職した途端に「計算ロジックが分からない」という事態に陥るケースも珍しくありません。
宿泊業は、季節・曜日・イベントの有無によって必要な人員数が大きく変動します。年末年始やゴールデンウィークのピーク時には通常の1.5〜2倍のスタッフが必要になる一方、閑散期には人件費の圧縮が経営課題となります。
この繁閑差に合わせてシフトを組むには、過去の稼働データと予約状況をもとにした「先読み」が不可欠です。しかし、勤怠データと予約データがそれぞれ別のシステムに散在していると、支配人やマネージャーの経験と勘に頼らざるを得ません。結果として、忙しい日に人が足りず、暇な日に人が余るという非効率が繰り返されます。
前述の厚生労働省調査が示す離職率の高さは、そのまま「入退社手続きの頻度が高い」ことを意味します。新しいスタッフが入るたびにアカウント作成・打刻カード発行・シフトパターンの登録を行い、退職時にはアカウント停止・最終給与計算・有給残日数の精算が発生します。
加えて、繁忙期のみ雇用する短期スタッフや、インターンシップの学生など、期間限定の人員も多く発生します。この「出入りの多さ」が管理者の事務負担を膨らませ、本来注力すべきゲストサービスの時間を奪っているのです。
紙のタイムカードや手書きの出勤簿では、本人以外が代わりに打刻する「代理打刻」や、実際の退勤時刻より遅い時刻を記入する「時刻の改ざん」を完全に防ぐことが困難です。こうした不正打刻は、人件費の無駄だけでなく、発覚時の従業員間の信頼崩壊という深刻な問題を引き起こします。
また、2019年の働き方改革関連法施行以降、残業時間の上限規制や年5日の有給休暇取得義務が厳格化されました。違反した場合は罰則の対象にもなり得るため、正確な勤怠記録は「あれば便利」ではなく「なければ違法」の領域に入っています。こうした課題を踏まえ、次のセクションでは具体的にどんな機能があれば解決できるのかを見ていきましょう。
課題の全体像が見えたところで、次に知りたいのは「では、どんな機能を持つシステムを選べばよいのか」という具体的な判断基準です。ここでは勤怠管理システムの主要機能を8つのポイントに分けて整理し、ホテル・旅館の現場に本当に必要な要件を明らかにします。
シフト管理の効率化は、ホテル向け勤怠管理システムを導入する最大の理由のひとつです。優れたシステムでは、各スタッフの希望勤務日・資格・スキル・労働時間の上限といった条件を登録しておくと、それらを加味したシフト表を自動で生成してくれます。
たとえば「フロントには英語対応可能なスタッフを常時1名以上配置する」「調理部門はベテランと新人をペアにする」といったルールを事前に設定しておけば、システムが制約条件を満たすシフトを提案します。管理者は微調整を加えるだけで済むため、シフト作成にかかる時間を従来の半分以下に短縮した事例も報告されています。
クラウド型の勤怠管理システムの多くは、0時をまたぐ「日またぎシフト」や中抜け勤務に標準対応しています。打刻データが自動的に「勤務開始日」に紐づけられるため、集計時に日付のズレが起きません。
深夜割増賃金の計算も自動化されます。22時〜翌5時の時間帯に該当する勤務時間をシステムが自動で識別し、割増率を適用した金額を算出してくれるため、手計算で起きがちな「深夜時間の切り出し間違い」がなくなります。旅館特有の中抜け勤務についても、複数回の打刻(出勤→退勤→再出勤→最終退勤)に対応しているシステムを選ぶことが重要です。
ホテルチェーンや複数施設を運営する事業者にとって、各拠点の勤怠データを本部で一元管理できるかどうかは大きな選定基準です。クラウド型の勤怠管理システムであれば、インターネット経由でリアルタイムにデータが同期されるため、本部の労務担当者が全拠点の勤務状況を一つの画面で確認できます。
施設内の部門管理も同様です。フロント・レストラン・清掃・管理部門ごとに異なる勤務ルールを設定しつつ、全体の人件費や残業時間を横断的に把握できる仕組みがあれば、経営判断のスピードが格段に上がります。
勤怠データは最終的に給与計算に反映されなければ意味がありません。多くの勤怠管理システムは、主要な給与計算ソフト(マネーフォワード クラウド給与、freee人事労務、弥生給与など)とのCSV連携またはAPI連携(システム同士が自動でデータをやり取りする仕組み)に対応しています。
さらに宿泊業では、PMS(Property Management System:宿泊管理システム)との連携も注目されています。PMSの予約データから「この日は稼働率90%だから人員を増やす」といった判断材料をシフト作成に活用できれば、繁閑差への対応精度が向上します。ただし、PMS連携に対応しているシステムは限られるため、導入前に必ず確認しましょう。
働き方改革関連法では、時間外労働の上限が原則「月45時間・年360時間」と定められています。勤怠管理システムのアラート機能を活用すれば、残業時間が上限に近づいた段階で管理者とスタッフ双方に通知が届きます。
ホテル向けアラート機能の活用例
こうしたアラート機能は「うっかり法令違反」を未然に防ぐ安全網として機能します。とくに人事専任担当者がいない中小規模の旅館・ホテルにとっては、心強い味方です。
勤怠管理システムの導入方式は大きく「クラウド型」と「オンプレミス型(自社サーバーに設置する方式)」に分かれます。現在はクラウド型が主流で、ホテル・旅館での導入でもクラウド型を選ぶケースが大半です。
| 比較項目 | クラウド型 | オンプレミス型 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 比較的低い(無料〜数万円程度が多い) | 高い(サーバー構築費用が発生) |
| 月額費用 | 1ユーザーあたり数百円が一般的 | 保守費用が発生 |
| 導入スピード | 最短数日〜数週間 | 数ヶ月かかることが多い |
| カスタマイズ性 | 標準機能の範囲内 | 高い自由度 |
| 法改正対応 | 自動アップデート | 個別対応が必要 |
| 向いている施設 | 中小〜中規模施設 | 大規模チェーン(独自要件が多い場合) |
コストを見る際は、月額料金だけでなく「打刻機器の購入費」「サポート費用」「オプション機能の追加料金」も含めた総額で比較することが大切です。
打刻方式は、現場スタッフの使いやすさとセキュリティのバランスで選びます。主な方式は以下のとおりです。
代表的な打刻方式と特徴
ホテルの現場では、フロントにICカードリーダーを設置し、清掃やイベントスタッフにはスマートフォン打刻を許可するなど、部門によって打刻方式を使い分ける運用も効果的です。導入前に「どの部門の誰がどこで打刻するか」を洗い出しておくと、無駄のないシステム設計ができます。
どれほど高機能なシステムを選んでも、現場に定着しなければ投資は無駄になります。導入時に確認すべきサポート体制のポイントは、「初期設定の代行の有無」「操作マニュアルや研修の提供」「問い合わせ対応の時間帯と手段(電話・チャット・メール)」の3点です。
とくに24時間営業のホテルでは、夜間にシステムトラブルが発生するリスクがあります。深夜帯でも問い合わせできるサポート窓口があるかどうかは、見落としがちですが重要な確認項目です。また、導入後1〜3ヶ月は「旧システムとの並行運用期間」を設けることで、データ移行の正確性を検証しながらスムーズに移行できます。
ここまでで機能面と選び方の全体像を押さえました。次のセクションでは、いよいよ具体的なシステム名を挙げながら、ホテル・旅館の規模や課題に合ったおすすめの選択肢を比較していきます。
機能要件が整理できたら、次は「どのシステムが自施設に合うのか」を具体的に比較検討するフェーズです。ここでは主要な6つの勤怠管理システムを取り上げ、それぞれの強みと向いている施設タイプを明らかにします。
システムを比較する前に、評価軸を明確にしておくことが遠回りのように見えて最も効率的です。宿泊施設が勤怠管理システムを選ぶ際に押さえるべき評価軸は、大きく以下の5つに分けられます。
勤怠管理システムの5つの評価軸
選定フローとしては、まず「スタッフ数と拠点数」で大枠を絞り、次に「必須機能(日またぎ対応・中抜け対応など)」でフィルタリングし、最後に「無料トライアルで実際の操作感を確認」するのが失敗しにくい手順です。
勤怠管理システムの導入効果は、施設の規模や既存の管理方法によって大きく異なります。一般的には、手作業でシフト管理を行っていた施設ほど効果が大きく、シフト作成時間の50%以上削減、給与計算作業の工数70%削減といった成果が業界内で報告されています。
費用感についても目安を押さえておきましょう。クラウド型の場合、月額費用は1ユーザーあたり200〜500円程度が一般的な価格帯です。スタッフ50名の施設であれば月額1〜2.5万円程度となり、管理者が残業してシフトや給与計算を行う人件費と比較すれば、十分に回収できる投資額です。ただし、システムによって料金体系は異なりますので、必ず見積もりを取って比較してください。
ジョブカン勤怠管理は、株式会社DONUTSが提供するクラウド型勤怠管理システムで、導入実績は累計25万社以上とされています。宿泊業界での採用も多く、その理由は「変形労働時間制への対応」と「多彩な打刻方式」にあります。
ICカード・指静脈認証・GPS打刻・LINE打刻など、業界トップクラスの打刻方式に対応しており、部門ごとに異なる打刻方法を設定できます。また、シフト管理機能が充実しており、スタッフからのシフト希望をオンラインで収集し、自動でシフト表に反映する機能も備えています。無料プラン(機能制限あり)が用意されている点も、初めて勤怠管理システムを導入する小規模旅館にとってはハードルが低いでしょう。
KING OF TIME(キングオブタイム)は、株式会社ヒューマンテクノロジーズが提供するクラウド型勤怠管理システムで、利用企業数は6万7000社以上(2026年1月時点、同社公表値)を誇ります。
最大の強みは、打刻方式の選択肢が業界最多クラスで20種類以上に対応している点です。指紋認証・顔認証・指ハイブリッド認証など生体認証の選択肢が豊富なため、不正打刻の防止を重視するホテルに適しています。また、英語表示にも対応しており、外国人スタッフが多い施設でも運用しやすい設計です。API連携先も豊富で、主要な給与計算ソフトや人事労務ソフトとの接続がスムーズに行えます。1人あたり月額300円(税別)という分かりやすい料金体系も評価されています。
タッチオンタイム(Touch On Time)は、株式会社デジジャパンが提供するクラウド型勤怠管理システムで、利用者数は300万人以上(2024年時点、同社公表値)とされています。
特筆すべきは「独自の打刻専用端末(タッチオンタイムレコーダー)」を無料でレンタルできる点です。この端末1台でICカード打刻・指紋認証・指静脈認証に対応するため、打刻機器の選定や購入に悩む必要がありません。初期費用を抑えつつ生体認証を導入したい施設には最有力候補と言えます。サポート体制も手厚く、電話・メール・リモート操作による支援が受けられるため、IT担当者がいない施設でも安心です。
ジンジャー勤怠は、jinjer株式会社が提供する人事労務プラットフォーム「ジンジャー」の勤怠管理モジュールです。勤怠管理だけでなく、給与計算・人事管理・経費精算・ワークフローといった人事労務業務を一つのプラットフォーム上で統合できることが最大の特長です。
「勤怠データを別のシステムに移してから給与計算する」という手間が不要になるため、バックオフィス業務全体を効率化したい中規模以上のホテルに向いています。スマートフォンアプリの操作性も良く、スタッフが自分のシフトや残業時間をリアルタイムに確認できるため、労務意識の向上にもつながります。
ShiftMAX(シフトマックス)は、KYODOU株式会社が提供するクラウド型でありながらエクセルを操作画面として使える勤怠管理システムです。「長年エクセルでシフトを管理してきた」という施設にとって、操作画面がエクセルそのものであるため、システム移行時の心理的ハードルが極めて低いのが魅力です。
また、宿泊業界に特化した勤怠管理ソリューションとしては、ホテル向けPMSと一体化した勤怠モジュールを提供しているベンダーもあります。業界特化型の利点は、「中抜け勤務」「日またぎシフト」「変形労働時間制」といった宿泊業の標準的な勤務パターンが初期設定の段階で組み込まれている点です。汎用型システムではカスタム設定が必要な項目が、最初から使える状態で提供されるため、導入初期の設定工数を大幅に削減できます。
勤労の獅子(エス・エー・エス株式会社)は、複雑な就業ルールへの対応力に定評があるシステムです。100種類以上の勤務パターンを設定可能で、ホテルのように部門ごとにまったく異なる就業規則を運用している施設に適しています。大規模施設やチェーンホテルでの導入実績が豊富で、数千人規模のスタッフを一元管理する運用にも耐えうる設計です。
一方、MOT勤怠管理(株式会社バルテック)は、IP電話やクラウド電話サービスと連携できるユニークな特長を持ちます。電話システムの刷新と勤怠管理の導入を同時に進めたい施設にとっては、ベンダーを一本化できるメリットがあります。中小規模の旅館やビジネスホテルで、複数の業務課題をまとめて解決したいケースに検討の価値があります。
ここまで紹介した6つのシステムをはじめ、選択肢は豊富にあります。最終的な判断は「自施設の規模」と「最も解決したい課題」の掛け合わせで行うのが合理的です。
| 施設タイプ | 主な課題 | 検討すべきシステム |
|---|---|---|
| 小規模旅館(スタッフ〜30名) | 初めてのシステム導入・コスト重視 | ジョブカン(無料プランあり)、タッチオンタイム |
| 中規模ホテル(スタッフ30〜100名) | 給与計算との連携・労務管理の強化 | KING OF TIME、ジンジャー勤怠 |
| 大規模チェーン(スタッフ100名以上) | 多拠点管理・複雑な就業規則への対応 | 勤労の獅子、業界特化型ソリューション |
| エクセル運用からの移行 | 操作感を変えたくない | ShiftMAX |
いずれのシステムも無料トライアルやデモ環境を用意していることが多いため、必ず実際の画面を触ってから判断してください。「営業資料の機能一覧では良さそうだったが、実際に使ってみると操作が複雑だった」というのは、システム選びで最も多い失敗パターンです。
なお、勤怠管理のような「守りのDX」を整えたら、次は「攻めのDX」——つまり売上を伸ばすための仕組みづくりにも目を向けたいところです。とくにOTA(Online Travel Agency:インターネット上の旅行予約サイト)に支払う手数料を削減し、自社公式サイト経由の予約を増やす取り組みは、人件費最適化と並ぶ重要な経営課題です。
たとえばtripla Bookは、宿泊施設の公式サイト向け予約エンジンとして、主要OTAの販売価格を自動取得し、自社サイトの最安値を表示する「ベストレート機能」を搭載しています。ゲストが「公式サイトが一番安い」と一目で分かるため、OTA経由から自社予約への転換が自然に進みます。最短4クリック以内で予約が完了するUI設計や、34通貨でのクレジットカード決済対応によるインバウンドゲストの取りこぼし防止も、多くのホテル・旅館で成果を上げています。
tripla導入施設の事例として、京王プレリアホテル札幌ではtripla Book導入後、公式サイト経由の予約比率向上とOTA手数料の削減を実現しています(事例詳細はこちら)。勤怠管理で業務を効率化しながら、予約エンジンで収益構造を改善する——この両輪を回すことが、持続可能なホテル経営のカギを握っています。
この記事では、ホテル・旅館における勤怠管理の5つの課題(日またぎシフト・多様な雇用形態・繁閑差・入退社の頻度・不正打刻リスク)を整理し、それらを解決する勤怠管理システムの主要機能と選び方、さらにジョブカン・KING OF TIME・タッチオンタイム・ジンジャー勤怠・ShiftMAX・勤労の獅子といった具体的なシステムの比較を行いました。
勤怠管理の効率化は、単なるコスト削減にとどまりません。スタッフの働きやすさを高め、労務リスクを防ぎ、管理者がゲスト対応や経営判断に集中できる環境をつくる——その土台となる取り組みです。「まずは無料トライアルで1つ試してみる」という小さな一歩が、施設全体の生産性向上への確かなスタートラインになるはずです。
triplaでは、宿泊業務の効率化と顧客体験向上のためのデジタルツールを横断的に提供しています。自社予約比率の向上や各種ツールの統合などのお悩みは専任のスタッフに気軽にご相談(無料)ください。