
人件費の上昇が続く中、ホテル・旅館の経営者にとってコスト管理は切実な課題です。最低賃金の引き上げや採用競争の激化により、人件費は年々増加傾向にあります。しかし、むやみに人員を減らせばサービス品質が低下し、お客様離れを招きかねません。
本記事では、人件費の正確な把握方法から具体的な最適化施策まで、小規模旅館でも取り組みやすい方法をお伝えします。デジタルツールの活用や働き方の見直しなど、今日から検討できる内容をまとめました。
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宿泊業において人件費は、売上に対して大きな割合を占める費用項目です。経営の安定と成長を考えるうえで、人件費の構造を理解することは欠かせません。まずは人件費の基本的な考え方と、業態ごとの違いを確認しましょう。
ホテル・旅館における人件費とは、従業員に支払う給与や賞与、社会保険料などを含む総額を指します。具体的には以下の項目が含まれます。
これらすべてを合計したものが人件費となります。見落としがちな採用コストや研修費も含めて把握することが大切です。特に小規模旅館では、オーナー自身の労働時間も見えないコストとして認識しておく必要があります。
ホテルの人件費率は売上全体の30%前後が業界標準とされています。ただし、業態によって大きく異なります。
| 業態 | 人件費率の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| フルサービス型ホテル(シティホテル・リゾートホテル・旅館など) | 約30~40% | レストラン・宴会場・コンシェルジュなどサービスが充実 |
| 宿泊特化型ホテル(ビジネスホテルなど) | 約20~30% | 宿泊に特化し、サービスを絞り込んでいる |
旅館は食事提供や仲居サービスがあるため、フルサービス型ホテルに分類されます。人件費率が高くなりやすい業態であることを理解したうえで、適正な水準を目指しましょう。
人件費は固定費の性質が強く、売上が減少しても簡単には削減できません。そのため、閑散期には利益を圧迫しやすい構造があります。また、毎月確実に発生する支出であるため、資金繰り(キャッシュフロー)にも大きく影響します。
近年は最低賃金の上昇や少子化による採用競争の激化が続いています。人件費が経営を圧迫する状況は、今後さらに厳しくなる可能性があります。だからこそ、早めの対策が求められるのです。
ただし注意点があります。過度な人員削減はサービス品質の低下を招き、口コミ評価の悪化やリピーター離れにつながります。人件費の最適化は、顧客満足度とのバランスを保ちながら進めることが重要です。
人件費を最適化するには、まず現状を正確に把握する必要があります。勘や経験だけに頼った管理では、本当の課題が見えてきません。数値で「見える化」することで、効果的な改善策が見つかります。
人件費率は以下の計算式で求められます。
人件費率(%)= 人件費 ÷ 売上高 × 100
たとえば、月の売上が500万円で人件費が150万円の場合、人件費率は30%となります。この数値を毎月追いかけることで、傾向を把握できます。
飲食部門を持つ旅館では、FLコストという指標も参考になります。FLコストとは「Food(食材費)」と「Labor(人件費)」を合計したものです。一般的に、売上の55~65%以内に収めることが健全とされています。
これらの指標を定期的にチェックし、異常値が出た場合は原因を探る習慣をつけましょう。
人件費を細かく分析するには、部門別・業務別に労働時間を把握することが有効です。旅館であれば、以下のような分け方が考えられます。
各部門の労働時間と人件費を算出し、売上や客数で割ると「1人あたりのコスト」や「1室あたりのコスト」が見えてきます。どの業務に時間がかかっているかが分かれば、改善の優先順位をつけやすくなります。
正確な把握には、PMS(ホテル管理システム)や勤怠管理システムの活用が効果的です。手書きの出勤簿やExcel管理では、集計に時間がかかり、分析まで手が回らないことが多いためです。
システムを導入すると、以下のメリットがあります。
最初は導入コストや操作への不安があるかもしれません。しかし、一度仕組みを整えれば、毎月の集計作業が大幅に楽になります。
現状把握ができたら、具体的な改善に取り組みましょう。人件費の最適化には複数のアプローチがあります。自館の状況に合った方法を選び、できるところから始めることが大切です。
デジタル化による業務効率化は、人件費最適化の有効な手段です。とくにセルフチェックイン機や自動精算機の導入は、フロント業務の省人化に直結します。
小規模旅館でも取り組みやすい自動化の例を挙げます。
すべてを一度に導入する必要はありません。まずは予約管理の効率化から始め、段階的に広げていく方法がおすすめです。
多能工化(マルチスキル化)とは、一人のスタッフが複数の業務をこなせるようにすることです。フロントスタッフが清掃も担当したり、調理補助と配膳を兼務したりする形が考えられます。
多能工化のメリットは、繁閑に応じた柔軟な人員配置ができることです。チェックイン時間帯はフロントに集中し、その後は清掃や準備に回るといった動きが可能になります。
シフト設計では、以下の点を意識しましょう。
勘や経験だけで人員配置をすると、忙しい時に人が足りず、暇な時に人が余る状況が生まれます。データに基づいた配置を心がけましょう。
人件費の最適化には、雇用形態のバランス見直しも有効です。正社員・パート・アルバイトの比率を見直し、業務内容に応じた適切な配置を検討します。
外部委託(アウトソーシング)の検討も選択肢の一つです。
| 業務 | 外注のメリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 客室清掃 | 繁閑に応じた人数調整が容易 | 品質管理の仕組みが必要 |
| リネン管理 | 設備投資や在庫管理が不要 | 納品スケジュールの調整 |
| 経理・給与計算 | 専門知識がなくても対応可能 | 情報共有の手間 |
外注は「コスト削減」だけでなく、「経営者の時間を確保する」という観点でも価値があります。自館でやるべき業務と外に任せる業務を整理してみましょう。
厚生労働省の統計によると、宿泊業の有効求人倍率は全産業平均を大幅に上回っています。人材確保が難しい状況が続いており、採用コストの上昇と離職による戦力ダウンが経営を圧迫しています。
2026年の業界人材調査では、最大の人材課題として「求職者減少」(33.7%)が挙げられています。次いで「賃金競争の激化」(26.0%)、「定着率の低さ」(21.9%)が続きました。採用の入り口と定着の両面で課題があることが分かります。(予測 2026年人材調査)
定着率を高めるための施策例を挙げます。
一人の離職は、採用費・教育費・残ったスタッフの負担増という形でコストに跳ね返ります。定着率向上は、長い目で見れば人件費の最適化につながるのです。
DXや設備投資には費用がかかります。しかし、国や自治体の補助金・助成金を活用することで、負担を軽減できます。
宿泊業で活用しやすい制度の例を挙げます。
投資を検討する際は、「何年で回収できるか」を試算しましょう。たとえば、セルフチェックイン機の導入で月20時間の業務削減ができれば、年間240時間の効率化になります。時給換算でどれだけの効果があるかを計算し、投資判断の材料にします。
補助金の申請は手続きが煩雑に感じるかもしれません。商工会議所や中小企業診断士などの専門家に相談すると、スムーズに進められることが多いです。
ホテル・旅館の人件費管理は、経営の安定に直結する重要なテーマです。まずは人件費率を正確に把握し、部門別・業務別の分析から課題を見つけましょう。そのうえで、DXによる業務効率化、多能工化やシフト最適化、雇用形態の見直し、定着率向上といった施策に取り組むことで、サービス品質を維持しながらコストを最適化できます。
大切なのは、一度にすべてを変えようとしないことです。自館の状況に合った施策を選び、できるところから一歩ずつ進めていきましょう。補助金制度も上手に活用し、無理のない投資計画を立てることをおすすめします。
デジタル化による予約管理や顧客対応業務の効率化をご検討の際は、triplaの専任スタッフに気軽にご相談ください。宿泊業務の生産性向上に役立つ情報をお伝えします。