
ホテルや旅館の運営において、予約管理から売上管理まで多岐にわたる業務を効率的に行うことは、宿泊施設の成功に欠かせません。PMS(Property Management System)は、これらの業務を一元管理できるホテル管理システムとして、多くの宿泊施設で導入が進んでいます。
宿泊業界では現在、深刻な人手不足に直面しており、2024年の帝国データバンク調査では、宿泊業の事業者の約71%が正社員不足と回答しています。このような状況下で、PMSは業務効率化と顧客満足度向上を同時に実現する解決策として注目を集めています。
本記事では、PMSの基本的な機能から、施設の規模や業態に応じた選び方まで、導入を検討している方に向けて詳しく解説します。
triplaでは、宿泊業務の効率化と顧客体験向上のためのデジタルツールを横断的に提供しています。PMSと連携可能な各種ツールの統合や、自社予約比率の向上などのお悩みは専任のスタッフに気軽にご相談(無料)ください。
PMSとは「Property Management System」の略で、ホテルや旅館などの宿泊施設における運営業務を総合的に管理するシステムです。フロント業務から客室管理、予約管理、顧客管理まで、宿泊施設の運営に必要な機能を一つのプラットフォームで提供します。
従来、紙台帳やエクセルで管理していた業務をデジタル化することで、スタッフの作業時間を大幅に削減できます。帝国データバンクの調査(2025年)によると、宿泊業の5割超が人手不足に直面している一方で、IPA「DX白書2023」では宿泊業のDX取り組み状況はわずか16%にとどまっており、PMSなどのデジタルツールの導入が急務となっています。参考/参考
予約管理機能は、PMSの中核となる機能です。自社サイト、電話、OTA(オンライン旅行代理店)など、さまざまな経路から入る予約を一元管理し、ダブルブッキングのリスクを防ぎます。
リアルタイムで客室の空き状況を確認でき、予約の変更やキャンセルも簡単に処理できます。また、予約確認メールの自動送信機能により、スタッフの手間を省きながら、ゲストへの迅速な対応が可能になります。
フロント管理機能では、チェックインシステムとチェックアウトシステムを通じて、受付業務を効率化します。ゲストの到着前に事前チェックイン情報を登録しておくことで、当日の手続き時間を大幅に短縮できます。
セルフチェックイン機能を搭載したPMSでは、ゲストがタブレットやスマートフォンを使って自分でチェックイン手続きを完了できるため、フロントスタッフの負担軽減とゲストの待ち時間削減を同時に実現します。
客室管理機能は、各部屋の状態(空室、在室、清掃中など)をリアルタイムで把握できる機能です。清掃スタッフとフロントスタッフが同じ情報を共有することで、効率的な客室の回転が可能になります。
清掃管理機能と連携することで、チェックアウト後の清掃指示が自動的に発行され、清掃完了の報告もシステム上で行えます。これにより、客室の稼働率を最大化し、ゲストへの迅速な案内が可能になります。
顧客管理機能では、ゲストの宿泊履歴、好み、特別なリクエストなどを記録・管理します。過去の宿泊データを活用することで、パーソナライズされたサービスの提供が可能になり、顧客満足度の向上につながります。
誕生日や記念日などの情報を管理し、適切なタイミングでプロモーションメールを送信することで、リピーター獲得にも貢献します。また、VIPゲストの識別も容易になり、特別な対応を確実に実施できます。
PMSの売上管理機能は、日々の売上データを自動的に集計し、経営状況を可視化します。部屋タイプ別、期間別、顧客属性別など、さまざまな切り口で売上を分析できるため、経営判断に必要な情報を素早く把握できます。
データ分析機能により、稼働率、ADR(平均客室単価)、RevPAR(利用可能客室1室あたり収益)などの指標を自動算出し、収益最大化のための戦略立案をサポートします。
レポート機能では、日報、月報、年報などを自動生成し、経営陣への報告業務を効率化します。グラフやチャートを使った視覚的なレポートにより、数字分析が苦手な方でも直感的に業績を把握できます。
予約経路別の売上比較や、曜日別・時期別の稼働率推移など、詳細な分析レポートも作成可能です。これらのデータを活用して、料金設定の最適化や販売戦略の改善につなげることができます。
動的な料金設定機能を持つPMSでは、需要予測に基づいて客室料金を自動調整できます。繁忙期と閑散期で柔軟に料金を変更することで、収益の最大化と稼働率の安定化を両立できます。
競合施設の料金情報や、地域のイベント情報と連動した料金設定も可能で、市場の動向に合わせた適切な価格戦略を実現します。
売上データを会計システムと連携することで、仕訳作業の自動化が可能になります。手作業での転記ミスを防ぎ、経理担当者の業務負担を大幅に削減できます。
請求書の発行や入金管理も一元化され、未収金の管理も容易になります。月次決算のスピードアップにも貢献し、経営判断の迅速化をサポートします。
PMSには大きく分けてクラウド型とオンプレミス型の2種類があります。それぞれに特徴があり、施設の規模や運営方針に応じて選択する必要があります。
近年はクラウドPMSの導入が急速に進んでおり、初期費用の低さと導入の手軽さから、中小規模の宿泊施設を中心に人気を集めています。
クラウドPMSは、インターネット経由でシステムを利用するため、サーバーの購入や保守が不要です。初期投資を抑えながら、最新の機能を常に利用できることが最大のメリットです。
場所を選ばずアクセスできるため、外出先からでも予約状況の確認や管理業務が可能です。また、自動バックアップ機能により、データ消失のリスクも最小限に抑えられます。
システムのアップデートも自動で行われるため、IT専門知識がなくても安心して利用できます。
オンプレミス型は、自社のサーバーにシステムを構築する従来型のPMSです。カスタマイズの自由度が高く、独自の業務フローに合わせたシステム構築が可能です。
データを自社で管理するため、セキュリティ面での管理を完全にコントロールできます。ただし、初期投資が大きく、保守・運用にも専門知識が必要となります。
大規模ホテルチェーンや、特殊な要件がある施設では、オンプレミス型を選択するケースもあります。
クラウドPMSとオンプレミス型を選ぶ際は、以下の点を比較検討することが大切です。
| 比較項目 | クラウドPMS | オンプレミス型 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 低い(月額利用料のみ) | 高い(サーバー購入費など) |
| 導入期間 | 短い(数日~数週間) | 長い(数ヶ月~) |
| 保守・運用 | ベンダーが対応 | 自社または外部委託 |
| 拡張性 | 柔軟に対応可能 | 事前の設計が必要 |
| アクセス性 | どこからでも可能 | 社内ネットワーク限定 |
最近では、両方のメリットを活かしたハイブリッド型のPMSも登場しています。基本機能はクラウドで提供し、機密性の高いデータのみ自社サーバーで管理するという選択肢もあります。
宿泊施設の規模や業態によって、必要とされるPMSの機能は大きく異なります。小規模な旅館から大規模ホテルチェーンまで、それぞれに適したシステムを選ぶことが、導入成功の鍵となります。
選定の際は、現在の業務課題だけでなく、将来の事業拡大も見据えて検討することが大切です。
客室数が20室以下の小規模施設では、シンプルで使いやすいPMSが適しています。基本的な予約管理と顧客管理機能があれば十分で、複雑な機能よりも操作性を重視すべきです。
月額費用も重要な選定基準となります。売上規模に見合った料金体系のPMSを選び、費用対効果を慎重に検討しましょう。
サポート体制も確認が必要です。IT専任者がいない施設では、電話やメールでの手厚いサポートが受けられるベンダーを選ぶことをおすすめします。
50室以上のビジネスホテルでは、効率的な運営が求められます。OTA連携機能は必須で、複数の予約サイトからの予約を一元管理できるシステムが適しています。
団体予約の管理機能や、法人契約の管理機能も重要です。請求書の一括発行や、企業別の宿泊実績管理ができると、営業活動にも活用できます。
レベニューマネジメント機能を持つPMSなら、稼働率と客室単価の最適化により、収益向上が期待できます。
100室以上の大規模施設では、レストランやスパなど付帯施設の管理も含めた統合的なシステムが必要です。部門間の情報共有がスムーズに行える統合PMSにより、ゲストに一貫したサービスを提供できます。
多言語対応や複数通貨への対応も、インバウンドゲストが多い施設では欠かせません。スタッフの勤怠管理やシフト管理機能も、大規模施設では業務効率化に貢献します。
POSシステムやビル管理システムとの連携も検討しましょう。施設全体のオペレーションを最適化することで、大幅なコスト削減が可能になります。
旅館やリゾートホテルなど、業態によって特殊な要件があります。
これらの特殊要件に対応できるかどうかも、PMS選定の重要なポイントです。デモやトライアルを活用して、実際の業務に適合するか確認しましょう。
PMS導入により、多くの宿泊施設が業務効率化と収益向上を実現しています。人手不足が深刻化する中、システムによる自動化は施設運営の持続性を高める重要な要素となっています。
triplaでは、PMSの自社開発は行っておりませんが、市場で実績のある様々なPMS事業者と連携し、宿泊施設の運営効率化を総合的にサポートしています。
株式会社ナバックは、1986年の創業以来、全国47都道府県で2,153件の導入実績を誇る老舗のPMS事業者です。10~300室程度のビジネスホテルや旅館向けに「宿OH!Pro」「フロントゲートウェイ」などのシステムを提供し、法人管理や団体調整機能などビジネス向けの機能が充実しています。
aipass株式会社は、28,000室以上の導入実績を持つクラウド型PMSを提供しています。直感的な操作性と省人化・無人化機能に強みを持ち、triplaとは2021年からAIチャットボット連携、2025年9月からはチャネルマネージャー「tripla Link」との連携も開始し、予約からチェックアウトまでを一気通貫でサポートしています。
その他にも、NEC(NEHOPS)、富士通(GLOVIA smart)、株式会社陣屋(陣屋コネクト)など、多くの優れたPMS事業者が市場に存在し、それぞれが異なる特徴と強みを持っています。
ある中規模ビジネスホテルでは、PMS導入によりフロント業務の時間を約40%削減したと報告されています。特に予約確認や清掃指示などの定型業務が自動化され、スタッフはゲスト対応により多くの時間を割けるようになりました。
aipassを導入した施設では、一時に多数のゲストが集中するチェックイン受付において、1人のスタッフで十分対応できるようになり、3-4組のお客様をお待たせする状況が大幅に改善されました。
月次の経営レポート作成時間も、従来の3日から半日に短縮され、経営判断の迅速化が実現しました。
データ分析機能を活用した料金最適化により、多くの施設で収益向上を実現しています。東京ホテル会の調査(2025年1月発表)によると、都内加盟ホテルのRevPARは22ヶ月連続で伸長しており、2024年12月は前年同月比17%向上の16,863円を記録しました。参考
OTA連携による販売チャネルの拡大も、新規顧客獲得に貢献しています。triplaのチャネルマネージャー「tripla Link」では、30社以上のOTAと連携し、台湾のLion Travelやインドネシアのtravelokaなど、東南アジア・東アジアのローカルOTAからのインバウンド集客も可能になっています。
triplaとPMSの連携により、予約管理から顧客対応、マーケティングまでを統合的に運用できます。例えば、AIチャットボット「tripla Bot」とPMSの連携により、多言語での問い合わせ対応と事前チェックインが可能になり、フロント業務の効率化と顧客満足度向上を同時に実現しています。
チェックイン時間の短縮も、顧客満足度向上に直結します。事前チェックイン機能により、到着時の手続きが数分で完了し、ゲストのストレスを大幅に軽減できます。
PMS導入を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
導入初期は一時的に業務負荷が増える可能性もありますが、長期的には必ず効率化につながります。適切なPMS選択とサポートサービスの活用により、成功への道筋を確実にすることができます。
PMS(ホテル管理システム)は、予約管理から売上分析まで、宿泊施設の運営に必要な機能を統合的に提供するシステムです。深刻な人手不足に直面する宿泊業界において、業務効率化と顧客満足度向上を同時に実現する解決策として、その重要性はますます高まっています。
施設の規模や業態に応じて、必要な機能や導入形態は異なります。小規模施設にはシンプルで使いやすいクラウドPMS、大規模施設には統合的な機能を持つシステムが適しています。
導入により、業務時間の削減、収益の向上、顧客満足度の改善など、多くのメリットが期待できます。成功のためには、自施設の課題を明確にし、適切なシステムを選定することが重要です。
これからの宿泊施設経営において、PMSは単なる管理ツールではなく、競争力を高めるための戦略的な投資といえるでしょう。