
「うちのホテルは稼働率80%だから順調だ」——そう思っていたのに、なぜか利益が伸びない。あるいは「客室単価を上げたら予約が減ってしまった」という経験はないでしょうか。実は、稼働率と客室単価を別々に見ているだけでは、本当の収益力は見えてきません。この課題を解決する鍵が、世界中のホテル経営者が注目する指標「RevPAR」です。
この記事では、RevPARの計算方法からADR・OCCとの違い、そして具体的な改善施策まで、現場で使える知識を体系的に解説します。
RevPARを理解するためには、まずその基本的な意味と計算方法を押さえる必要があります。ここでは、RevPARの定義から関連指標であるADRとOCCまで、順を追って解説します。
RevPARとは「Revenue Per Available Room」の略称で、日本語では「販売可能客室1室あたりの収益」と訳されます。簡単に言えば、「空室も含めたすべての客室が、平均してどれだけの売上を生み出しているか」を示す数字です。
なぜこの指標が重要なのでしょうか。たとえば、稼働率が90%でも客室単価が極端に低ければ、収益としては物足りない結果になります。逆に、客室単価が高くても稼働率が30%しかなければ、空室だらけで効率的とはいえません。RevPARは、この「稼働率」と「客室単価」という二つの要素を掛け合わせることで、ホテルの真の収益力を一つの数字で表現できるのです。
観光庁の「宿泊旅行統計調査」でも関連指標として採用されており、ホテル業界では世界標準の経営指標として広く認知されています。投資家がホテルの価値を判断する際にも、真っ先に確認する数字の一つです。
RevPARの計算方法は非常にシンプルで、二つのアプローチがあります。
| 計算方法 | 計算式 | 具体例 |
|---|---|---|
| 方法1 | 客室売上高 ÷ 販売可能客室数 | 500万円 ÷ 500室 = 10,000円 |
| 方法2 | ADR(平均客室単価)× OCC(稼働率) | 12,500円 × 80% = 10,000円 |
どちらの計算式を使っても結果は同じになります。方法1は「結果としてのRevPAR」を直接算出する方法で、月次や年次の振り返りに便利です。方法2は「ADRとOCCのバランス」を意識しやすく、日々の価格戦略を考える際に役立ちます。
ここで注意したいのが「販売可能客室数」の考え方です。これは実際に販売した客室数ではなく、その日に販売できる状態にあった客室の総数を指します。改装中やメンテナンスで使用できない客室は、通常この数から除外して計算します。
ADRとは「Average Daily Rate」の略で、実際に宿泊があった客室の平均販売価格を意味します。計算式は「客室売上高 ÷ 販売客室数」です。
ここで重要なのは、ADRが「売れた客室だけ」を対象にしている点です。100室のホテルで50室が埋まり、その売上が75万円だった場合、ADRは75万円÷50室で15,000円となります。空室の50室は計算に含まれません。
ADRは「価格設定の巧みさ」を測る指標と言えます。同じ立地・同じグレードの競合ホテルと比較して、自社のADRが高ければ、ブランド力や販売力が優れている証拠です。ただし、ADRだけを追求して価格を上げすぎると、稼働率が下がるリスクがあります。
OCC(Occupancy Rate)は、販売可能な客室のうち、実際に宿泊者がいた客室の割合を示します。計算式は「販売客室数 ÷ 販売可能客室数 × 100」です。
たとえば、100室のホテルで80室が埋まれば、OCCは80%となります。この指標は「客室という資産をどれだけ有効活用できているか」を表しています。
稼働率を高めることは重要ですが、ここにも落とし穴があります。空室を埋めようとして大幅な値引きを行えば、OCCは上がってもADRは下がります。結果として、RevPARが改善しないどころか、むしろ悪化するケースもあるのです。
ここまでRevPARの基本を理解したところで、次はADRやOCCがRevPARにどのような影響を与えるのか、その関係性を詳しく見ていきましょう。
RevPARは単独で見るよりも、ADRやOCCとの関係性を理解することで、より実践的な経営判断に活かせます。ここでは、各指標がRevPARにどう影響するかを具体的に解説します。
ADRの上昇は、稼働率が維持されていればRevPARを直接押し上げます。たとえば、ADRが10,000円から12,000円に20%上昇し、OCCが80%のままであれば、RevPARは8,000円から9,600円へと同じく20%向上します。
しかし現実には、価格を上げれば予約が減る可能性があります。重要なのは「価格弾力性」の把握です。繁忙期は価格を上げても予約が減りにくい傾向があり、閑散期は価格に敏感な顧客が多くなります。
ADR向上のカギは、値上げではなく「価値の向上」にあります。朝食付きプランの充実、客室アメニティの改善、記念日向け特典の追加など、顧客が「この価格なら納得」と感じる付加価値を提供することで、ADRは自然と上昇していきます。
稼働率の向上も、ADRが維持されていればRevPARを改善します。OCCが60%から80%に上昇すれば、ADRが同じでもRevPARは33%も向上する計算です。
ただし、稼働率を追求するあまり極端な値引きに走ると、「安売りホテル」というイメージが定着してしまうリスクがあります。一度ついた安いイメージを払拭するのは容易ではありません。
観光庁の宿泊旅行統計調査(2025年)によると、全国のホテル・旅館の平均稼働率は約60%でした。この数字を大きく下回っている場合は稼働率向上の余地があり、すでに高い場合はADR向上に注力するのが効率的な戦略といえます。
RevPARとセットで知っておきたいのが、GOPPAR(Gross Operating Profit Per Available Room)です。これは「販売可能客室1室あたりの営業粗利益」を意味し、売上だけでなくコストも考慮した収益性指標です。
RevPARが高くても、清掃費や人件費、OTA手数料などのコストが膨らめば、実際の利益は少なくなります。GOPPARは、この「売上からコストを引いた後の真の収益力」を測る指標として、近年注目度が高まっています。
たとえば、OTA経由の予約が増えれば稼働率は上がりますが、15〜20%の手数料が発生します。一方、自社サイト経由の予約であれば手数料は大幅に抑えられます。RevPARが同じでも、GOPPARには大きな差が生まれるのです。
RevPARの真価は、競合ホテルとの比較において発揮されます。同じエリア・同じグレードのホテル群(競合セット)の平均RevPARと自社を比較することで、相対的な競争力が見えてきます。
競合比較で使われる主要指標
これらの指標が100を超えていれば競合より優位、下回っていれば改善の余地があると判断できます。自社の強み・弱みを客観的に把握するために、定期的なベンチマーキングは欠かせません。
RevPARと関連指標の関係を理解したところで、次は実際の現場でどのようにRevPARを活用すべきか、具体的な方法を見ていきましょう。
RevPARは計算して終わりではありません。日々の運営から中長期の戦略まで、さまざまな場面で活用することで、その真価を発揮します。ここでは、実践的な活用方法を紹介します。
RevPARを毎日確認することで、需要の変動をリアルタイムに把握できます。前年同日・前週同曜日との比較を習慣化すれば、異常値にすぐ気づけるようになります。
具体的には、毎朝の朝礼で以下の項目をチェックすることをおすすめします。
日次RevPARチェック項目
たとえば、来週末のRevPAR予測が前年を下回っていれば、今のうちにプロモーションを打つ判断ができます。逆に予測が好調であれば、価格を見直して収益最大化を図れます。このように、RevPARは「先読み」のツールとして活用することで、後手に回らない経営が可能になります。
RevPARを活用した価格戦略の基本は、「需要に応じた柔軟な価格設定」です。需要が高い日は価格を上げてADRを最大化し、需要が低い日は価格を下げて稼働率を確保する——このバランス調整がRevPAR最大化のカギとなります。
価格変更の判断基準として「リードタイム」を活用するのも効果的です。リードタイムとは、予約日から宿泊日までの日数のこと。たとえば、通常は2週間前に80%埋まる日程が、今回は1週間前で60%しか埋まっていなければ、価格調整やプロモーションが必要と判断できます。
このような分析を人力で行うのは限界があります。多くのホテルが予約エンジンやレベニューマネジメントツールを導入し、データに基づいた価格戦略を実践しています。
RevPARは、市場全体の動向を把握するためにも活用できます。観光庁が毎月公表する宿泊旅行統計調査では、都道府県別・施設タイプ別のRevPARデータが確認できます。
たとえば、自社のRevPARが前年比110%で好調だと思っていても、市場全体が120%成長していれば、相対的には取り残されていることになります。逆に、市場が90%に縮小する中で95%を維持できていれば、健闘していると評価できます。
また、インバウンド比率の変化や国内旅行トレンドの変化をRevPARの推移から読み取ることもできます。2025年の訪日外国人旅行者数は約4,200万人(日本政府観光局調べ)と回復が進み、インバウンド需要の取り込みがRevPAR向上に直結するようになりました。
経営目標を設定する際、RevPARは中心的なKPI(重要業績評価指標)として位置づけられます。年間目標RevPARを設定し、それを月別・週別・日別に分解することで、具体的なアクションプランが見えてきます。
ただし、RevPARだけを唯一の指標とするのは危険です。前述のGOPPARや、顧客満足度、リピート率、自社サイト予約比率なども併せて管理することで、持続可能な収益改善が実現できます。
triplaの導入事例として、京王プレリアホテル札幌では、tripla Bookを導入後、自社サイト経由の予約比率が向上し、OTA手数料の削減とRevPAR改善を同時に達成しています(tripla公式サイトより)。このように、予約チャネルの最適化もRevPAR改善において重要な要素となります。
RevPARの活用方法を理解したところで、いよいよ具体的な改善施策に踏み込んでいきます。明日から実践できるアクションを紹介します。
RevPARを高めるには、ADR向上策とOCC向上策、そしてコスト削減策をバランスよく組み合わせることが重要です。ここでは、すぐに取り組める具体的な施策を紹介します。
ダイナミックプライシングとは、需要の変動に応じて価格をリアルタイムで変更する手法です。航空券やライブチケットでは一般的ですが、宿泊業界でも急速に普及しています。
従来の「平日◯円、休前日◯円」という固定的な料金体系では、需要が高い日に取りこぼしが発生し、需要が低い日に空室が増えます。ダイナミックプライシングを導入すれば、各日の需給バランスに応じた最適価格を設定でき、RevPARの最大化が可能になります。
「価格を頻繁に変えるのは大変」と思われるかもしれませんが、現在は自動で価格調整を行うツールが数多く存在します。予約状況や競合価格、イベント情報などを分析し、AIが最適価格を提案してくれるため、人手不足の施設でも導入しやすくなっています。
OTA(オンライン旅行代理店)経由の予約には、通常15〜20%の手数料がかかります。仮にADRが15,000円で手数料が15%なら、1泊あたり2,250円が手数料として消えていく計算です。100室規模のホテルで稼働率80%なら、年間で6,500万円以上の手数料負担となります。
公式サイト経由の予約比率を高めることは、実質的なRevPAR改善と同じ効果をもたらします。売上が同じでも、手数料が減ればGOPPARは向上するからです。
公式サイト直販を強化するためには、使いやすい予約エンジンの導入、公式サイト限定特典の設定、会員プログラムの充実などが有効です。また、顧客からの問い合わせに24時間対応できるチャットボットを導入すれば、予約途中での離脱を防ぎ、コンバージョン率(予約完了率)の向上が期待できます。
公式サイト直販を強化しつつも、OTAを完全に排除するのは現実的ではありません。OTAは「宿泊施設を知らない新規顧客」にリーチする強力な集客チャネルです。重要なのは、OTAを「集客の入口」として位置づけ、獲得した顧客を次回は公式サイトへ誘導する流れを作ることです。
OTA運用を最適化するポイントは以下の通りです。
OTA運用最適化のポイント
複数のOTAを運用している場合、在庫管理が煩雑になりがちです。サイトコントローラー(在庫一元管理ツール)を導入すれば、一つの画面からすべてのOTAの在庫・価格を管理でき、作業効率が大幅に向上します。
閑散期の稼働率向上には、ターゲットを絞ったプロモーションが効果的です。「誰でもいいから泊まってほしい」という姿勢では、価格競争に巻き込まれるだけです。
たとえば、平日の稼働率が低い旅館であれば、「平日限定・連泊プラン」を設定し、ワーケーション需要を取り込む戦略が考えられます。また、地元住民向けの「近場旅行プラン」や、記念日利用を狙った「アニバーサリープラン」など、明確なターゲットとニーズに応える商品設計が重要です。
プロモーションの告知においては、メールマガジンやSNS、公式サイトのポップアップなど、複数のチャネルを組み合わせることで効果が高まります。過去に宿泊した顧客への再訪促進は、新規獲得よりもコストが低く、高い成約率が期待できます。
稼働率を維持しながらADRを上げる最も効果的な方法が「アップセル」です。アップセルとは、予約時や宿泊当日に、より上位の客室タイプや追加サービスを提案することです。
| タイミング | 施策例 | 期待効果 |
|---|---|---|
| 予約完了時 | 上位客室への差額アップグレード提案 | ADR 10〜20%向上 |
| 宿泊前日 | 朝食・ディナー追加のメール案内 | 付帯売上増加 |
| チェックイン時 | 空室状況に応じたアップグレード提案 | 客室在庫の最適化 |
| 滞在中 | スパ・アクティビティの案内 | 顧客満足度向上 |
アップセルを成功させるコツは、「押し売り」ではなく「提案」として伝えることです。「本日は上位客室に空きがございますので、差額3,000円でご案内できます」という自然な声かけであれば、顧客にとっても嬉しい情報となります。
また、tripla Botのような多言語対応AIチャットボットを活用すれば、インバウンド顧客に対しても自動でアップセル提案が可能です。スタッフの負担を増やさずに、付加価値の提案ができる点は大きなメリットといえます。
この記事では、ホテル経営の重要指標であるRevPARについて、基本的な定義と計算方法から、ADR・OCCとの関係性、実践的な活用方法、そして具体的な改善施策まで解説しました。
RevPARは「稼働率」と「客室単価」という二つの要素を掛け合わせた指標であり、どちらか一方だけを追求しても真の収益改善にはつながりません。重要なのは、自社の現状を正確に把握し、ADR向上とOCC向上のバランスを取りながら、段階的に改善を進めていくことです。
ダイナミックプライシングの導入、公式サイト直販の強化、OTA運用の最適化、ターゲットを絞ったプロモーション、そしてアップセル施策——これらを組み合わせることで、RevPARの持続的な向上が実現できます。デジタルツールの活用により、人手不足の中でも効率的な収益改善が可能になっています。
まずは自社のRevPARを計算し、前年比や競合との比較を始めることからスタートしてみてください。数字を「見える化」することで、次に何をすべきかが自然と見えてきます。
triplaでは、宿泊業務の効率化と顧客体験向上のためのデジタルツールを横断的に提供しています。自社予約比率の向上や各種ツールの統合などのお悩みは専任のスタッフに気軽にご相談(無料)ください。