
「ホテル経営は儲からない」という声を聞いたことはありませんか。実際、多くのホテル経営者が収益性の低さに悩んでいるのは事実です。しかし一方で、着実に利益を出し続けているホテルも存在します。
本記事では、ホテル経営の収益構造や業界動向について、最新のデータをもとに解説します。なぜホテル経営が難しいといわれるのか、その理由を明らかにし、成功するために必要なポイントをお伝えします。これからホテル経営を始める方も、すでに運営されている方も、収益改善のヒントが見つかるはずです。
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ホテル経営の収益性を理解するには、まず業界全体の動向と収益構造を把握することが大切です。2024年の宿泊市場は5.5兆円と過去最高を記録し、外国人延べ宿泊者数も約1億6,446万人泊に達しました。しかし、この好調な数字の裏で、多くのホテルが収益性の課題を抱えています。参考
日本のホテル市場は、インバウンド需要の回復により活況を呈しています。2024年の宿泊市場規模は5.5兆円に達し、コロナ前を上回る水準まで回復しました。特に都市部では、外国人観光客の増加により客室稼働率が70%台後半で推移しています。
一方で、地方のホテルの稼働率は40~50%台にとどまり、地域間の格差が広がっています。この差は、観光資源やアクセスの違いだけでなく、マーケティング力の差も影響しています。成長市場であることは間違いありませんが、立地や戦略によって明暗が分かれているのが現状です。参考
ホテル経営の利益率は、一般的に数%~高いところで20%程度といわれています。売上高に対する原価率は約30%、人件費率は30~40%を占め、固定費の割合が高いことが特徴です。このため、稼働率が60%を下回ると赤字になるケースが多くなります。
収益の内訳を見ると、客室売上が全体の60~70%を占め、飲食部門が20~30%、その他付帯サービスが10%程度となっています。高級ホテルほど飲食部門の比率が高く、ビジネスホテルは客室売上への依存度が高い傾向があります。
ホテル経営の収益性を測る重要な指標に、RevPAR(客室あたり収益)があります。2024年に東京では約15,000円前後と過去最高を更新しましたが、ニューヨークやロンドンでは30,000〜50,000円規模に達しており、依然として差が開いています。(東京ホテル会 / PwC / Knight Frank)
また、投資回収期間は一般的に10~15年と長く、初期投資の大きさも経営の負担となっています。建物や設備の維持管理費も年間売上高の5~10%程度必要で、これらの固定費が収益を圧迫する要因となっています。
ホテル経営が難しいといわれる背景には、業界特有の構造的な課題があります。ここでは、多くのホテルが直面している収益性の問題について、具体的な理由を解説します。
ホテル業界最大の課題は、慢性的な人手不足です。厚生労働省によると、2024年度の全産業の有効求人倍率は1.25倍でした。宿泊業はこれを上回る水準で推移しており、慢性的な人手不足が続いています。特にフロントスタッフや客室清掃員の不足は深刻で、営業時間の短縮を余儀なくされるホテルも出ています。
人材不足は人件費の上昇にもつながり、売上高人件費率が40%を超えるホテルも少なくありません。さらに、サービス品質を維持するための教育コストも必要で、採用から戦力化までの期間とコストが経営を圧迫しています。
ホテル経営は典型的な装置産業で、固定費の割合が非常に高いビジネスモデルです。建物の減価償却費、固定資産税、保険料、基本的な人件費などの固定費が売上高の60~70%を占め、変動費でコントロールできる部分は限られています。
このため、稼働率が少し下がるだけで赤字に転落しやすく、繁忙期と閑散期の差が大きいほど年間を通じた収益確保が困難になります。多くのホテルの損益分岐点稼働率は55~65%で、これを下回ると赤字経営となってしまいます。
ホテルの売上は、季節や曜日、イベントなどの外部要因に大きく左右されます。観光地のホテルでは、繁忙期と閑散期で稼働率の差が大きく、地域によっては30〜50%以上の開きが生じることもあります。
また、天候不順や自然災害、感染症の流行など、予測不可能な要因による影響も受けやすく、リスクヘッジが難しいという課題もあります。コロナ禍では多くのホテルが大幅な減収を経験し、外部環境への脆弱性が露呈しました。
オンライン旅行代理店(OTA)への依存度の高さも、収益性を圧迫する要因です。多くのホテルで予約の半数以上がOTA経由となっており、手数料はおおむね10〜20%程度とされています。ただし、条件やプランにより変動します。。
OTAは集客力がある反面、価格競争を助長し、ホテルの価格決定権を弱める側面もあります。自社予約比率を高めようとしても、マーケティングノウハウや予算の不足から、OTA依存から脱却できないホテルが多いのが現状です。
ホテル業界では、特にビジネスホテルセグメントで激しい価格競争が続いています。同一エリアに競合ホテルが集中すると、価格以外での差別化が難しく、値下げ競争に陥りやすい構造があります。
サービスの標準化が進み、設備やアメニティでの差別化も限定的になっているなか、ブランド力のない中小ホテルほど価格でしか勝負できない状況に追い込まれています。結果として、稼働率は維持できても利益率が低下するという悪循環に陥っています。
ホテル経営で失敗するケースには、共通するパターンがあります。これらの失敗要因を事前に理解し、対策を講じることで、リスクを最小限に抑えることができます。
失敗するホテルの多くは、誰に向けたホテルなのかが不明確です。「誰でも泊まれるホテル」を目指した結果、特徴のない施設になり、競合との差別化ができずに埋没してしまうケースが後を絶ちません。
ビジネス客向けなのか観光客向けなのか、ファミリー層なのか若年層なのか、ターゲットによって必要な設備やサービスは大きく異なります。コンセプトが曖昧なまま開業すると、後から方向転換することは困難で、多額の追加投資が必要になることもあります。
ホテルビジネスにおいて立地は最重要要素の一つですが、立地選定を誤るケースが少なくありません。駅から遠い、観光地へのアクセスが悪い、周辺に飲食店がないなど、立地の悪さは後から改善できない致命的な問題となります。
また、開業前の需要予測が楽観的すぎるケースも多く見られます。競合調査が不十分で、すでに供給過剰なエリアに新規参入したり、一時的なイベント需要を恒常的な需要と勘違いしたりすることで、開業後すぐに経営難に陥るホテルもあります。
開業時に豪華な設備を導入したものの、それに見合った料金設定ができずに投資回収が困難になるケースがあります。初期投資を抑えようとして簡素な設備にすると競争力がなく、かといって過剰投資は資金繰りを圧迫するというジレンマに陥ります。
運転資金の見積もりが甘く、開業後の赤字期間を乗り切れずに資金ショートするケースも少なくありません。特に、稼働率が計画を下回った場合の資金計画が不十分で、追加融資も受けられずに行き詰まるパターンが目立ちます。
「良いホテルを作れば客は来る」という考えで、マーケティングを軽視するホテルは失敗しやすい傾向があります。開業前からの認知度向上施策や、開業後の集客戦略がないまま営業を始めると、稼働率が上がらずに苦戦することになります。
特にデジタルマーケティングの知識不足は深刻で、自社サイトのSEO対策やSNS活用ができていないホテルが多く存在します。OTAに頼り切りで自社集客ができないため、手数料負担が重くのしかかり、収益性が改善しない悪循環に陥っています。
厳しい競争環境のなかでも、しっかりとした戦略を持って経営すれば、ホテルビジネスで成功することは可能です。ここでは、収益性を高めるための具体的な方法を解説します。
成功しているホテルは、ターゲット顧客が明確で、そのニーズに特化したサービスを提供しています。例えば、ペット同伴専門、女性専用フロア、長期滞在特化など、特定のニーズに応えることで、価格競争から脱却し、高い稼働率と客単価を実現しています。
星野リゾートは地域の文化や自然を活かした独自のコンセプトで差別化し、高い収益性を実現しています。また、変なホテルはロボットによる自動化で話題性と効率性を両立させ、新しい価値を創出しました。このように、明確な独自性があれば、競合との差別化が可能になります。
人手不足と人件費高騰への対策として、デジタル技術の活用は不可欠です。相鉄ホテルズではtriplaのAIチャットボットを導入し、問い合わせ対応の自動化によりスタッフの業務負担を大幅に軽減しました。
また、予約管理システムの統合により、ダブルブッキングのリスクを減らしながら、スタッフの作業時間を削減することにも成功しています。
レベニューマネジメントの導入により、需要に応じた柔軟な価格設定が可能になります。曜日、季節、イベント、競合状況などのデータを分析し、AIを活用した価格最適化により、RevPARを15~20%向上させたホテルも存在します。
早期予約割引、直前割引、連泊割引など、多様な料金プランを設定することで、さまざまな需要を取り込むことができます。また、付帯サービスのアップセルやクロスセルにより、客単価を向上させることも重要な戦略です。
OTAの手数料負担を減らすには、自社サイトからの直接予約を増やすことが必要です。自社予約比率を50%以上に高めることができれば、手数料分の利益改善により、営業利益率を5~10%向上させることが可能です。
そのためには、SEO対策による検索上位表示、リスティング広告の活用、会員制度によるリピーター獲得などの施策が効果的です。また、自社サイト限定プランや、ベストレート保証により、直接予約のインセンティブを提供することも重要です。
外国人観光客の増加は、ホテル業界にとって大きなチャンスです。多言語対応、キャッシュレス決済、文化的配慮(ハラル対応など)により、インバウンド客の満足度を高め、高い客単価を実現できます。
翻訳アプリや多言語対応のデジタルサイネージの導入により、言語の壁を低くすることができます。また、海外のOTAや旅行会社との提携、インフルエンサーマーケティングなどにより、海外からの認知度を高めることも効果的な戦略です。
ホテル経営で利益を出し続けるには、日々の運営において押さえるべきポイントがあります。ここでは、実践的な運営ノウハウを紹介します。
人手不足の時代において、既存スタッフの定着は極めて重要です。離職率を10%以下に抑えることができれば、採用コストと教育コストを大幅に削減でき、サービス品質の安定にもつながります。
そのためには、適正な評価制度、キャリアパスの明確化、働きやすい環境づくりが必要です。また、マルチタスク化により一人あたりの生産性を高めることで、少ない人数でも効率的な運営が可能になります。スタッフの満足度が高ければ、それがサービス品質に反映され、顧客満足度の向上にもつながります。
ホテル運営では、小さなコストの積み重ねが収益に大きく影響します。エネルギーコストは売上の5~8%を占めるため、LED化や空調の最適化により、年間数百万円のコスト削減が可能です。
また、アメニティの適正化、リネンの交換頻度の見直し、食材ロスの削減など、品質を落とさずにコストを削減する方法は多数あります。定期的にコスト構造を見直し、ベンチマークと比較することで、改善余地を見つけることができます。
新規顧客の獲得コストは、リピーター獲得の5倍といわれています。顧客データベースを構築し、過去の宿泊履歴や好みを把握することで、パーソナライズされたサービスを提供し、リピート率を30%以上に高めることが可能です。
誕生日特典、会員限定プラン、ポイント制度などにより、再訪のきっかけを作ることができます。また、宿泊後のフォローメールやアンケートにより、顧客との関係性を維持し、次回の予約につなげることも大切です。
ホテル運営には、直営、フランチャイズ(FC)、マネジメントコントラクト(MC)などの選択肢があります。経営ノウハウが不足している場合は、FCやMC方式を選択することで、ブランド力や運営ノウハウを活用し、失敗リスクを低減できます。
FC方式では、ロイヤリティは発生しますが、マーケティング支援や運営指導を受けられます。MC方式では、運営を専門会社に委託することで、プロのノウハウを活用できます。自社の強みと弱みを分析し、最適な運営方式を選択することが成功への近道です。
| 運営方式 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 直営方式 | 利益を全て享受できる、自由な経営が可能 | 全てのリスクを負う、ノウハウ蓄積が必要 |
| FC方式 | ブランド力活用、運営支援あり | ロイヤリティ負担、経営の自由度低下 |
| MC方式 | プロの運営ノウハウ、リスク分散 | 運営委託費、経営への関与度低下 |
ホテル経営は確かに簡単なビジネスではありません。人手不足、高い固定費、激しい競争など、多くの課題が存在します。しかし、これらの課題を正しく理解し、適切な戦略を立てることで、十分に収益を上げることは可能です。
成功のカギは、明確なターゲット設定、デジタル技術の活用、効率的な運営、そして差別化戦略にあります。特に、人件費削減と業務効率化は避けて通れない課題であり、AIやIoTなどの最新技術を積極的に導入することが求められています。
市場規模が拡大し、インバウンド需要も回復するなか、ホテル業界にはまだまだチャンスがあります。本記事で紹介したポイントを参考に、収益性の高いホテル経営を実現してください。